2022年 2月 21日

XL2導入事例:北京オリンピック会場における音響測定

2022年北京冬季オリンピックでは、いつも選手たちの活躍にスポットライトが当たっていました。ラジオ、テレビ、インターネットを通じて、世界中の人々が競技の様子を興奮しながら観ていました。また競技の内容だけでなく、解説者の面白くてわかりやすい説明も視聴者の心を捉えました。

各会場では観客や特に選手自身にとって、拡声器によるアナウンスが重要な情報源となっています。冬季オリンピックのような国際的なトップイベントで要求されることは、アナウンスが誰にでも容易に理解できることです。

💡音質については、会場だけでなく、ラウンジ、実況解説室、制御室、廊下、放送ブースなどでもよく練られています。

担当した音響コンサルタントは、NTi Audioの機器に信頼を寄せており、ウォーターキューブなどの競技会場の改修・建設が始まった当初から使用しています。

 

そして、音響コンサルタントは、音響仕様をすべて満たした最高の音質を実現するため、着工から完成まですべての工程において音質を管理しました。最終的に、主観的な試聴だけでは音質を判断することはできません。そこで、音声伝達指数STI測定による客観的で科学的に認められた評価方法が採用されました。

GB/T 28049規格「Code for sound reinforcement system design of auditorium, gymnasiums and stadium」では、スタジアムにおける音声伝達指数(PAシステムのSTIPA)の要件が明確に規定されています。

 

残響

残響時間は、音声明瞭度に影響を与える最も重要な項目です。残響の多い屋内空間で、ライブの解説やアナウンスが聞きづらいと感じたことがある人は多いでしょう。

この表は、残響時間が長くなると音声伝達指数が低下することを示しています。

 

残響時間が明瞭度に与える影響については、次の2つのオーディオクリップでも聞き分けることができます。

残響が少ない

残響が多い

 
拡声装置の要件は、室容積と残響時間に関連性があります。80000〜160000立方メートルの室容積と残響時間1.6〜1.8秒の室空間では、適切に設計され、慎重に調整された拡声装置により良好な音声明瞭度を確保することができます。
 

💡 スタジアムとアリーナの違いとして、開放型のスタジアムは自由音場に近く、閉鎖型のアリーナは拡散音場に近いという特徴があります。

広いアリーナで残響時間を測定することは簡単なことではありません。高精度で使いやすい測定器だけでなく、テスト信号を室内に満たすパワフルな音源も必要です。そこで使用されたのが、DS3 12面体スピーカーです。

軽量なDS3 12面体スピーカーが活躍

 

測定結果はXL2アコースティックアナライザーに直接表示され、要件を満たしていない場所を即座に特定できます。データの後処理が不要なため、測定に必要な時間が大幅に短縮されます。

 

騒音の問題

周囲騒音が大きければ大きいほどSN比が下がるため、アナウンスが聞き取り難くなります。しかし、観客の騒音だけが影響するわけではありません。そのため、音響コンサルタントは、会場が空いているときと満員のときの両方で評価します。

アリーナが空いている時は騒音源となる観客はいませんが、他に換気、空調、照明など、騒音を発生させる要因があります。そこでNC値等の騒音曲線による評価が必要となります。

GB/T 28049規格では、最大総音量はNR35と規定されています。

NC値等騒音曲線の測定は非常に簡単です。XL2アコースティックアナライザーで直接数値を読み取ることができるため、周波数スペクトルの相互参照は必要ありません。

 

周囲騒音が音声明瞭度にどの程度影響を与えるかという問題には、答えを出すことが常に困難でした。観客席の中央で必要なレベルのテスト信号を再生し、何十回も測定することは不可能であることが主な理由です。

このジレンマに対し、NTi Audioは周囲騒音の影響を補正する斬新な機能を開発しました。先ず、音響コンサルタントは誰もいないアリーナで音声伝達指数STIPAを測定し、その結果を観客がいるときに記録された周囲騒音レベルと重ね合わせます。このようにして、観客がいるときの音声伝達指数を求めることができ、理論的な要件と実際の測定との矛盾が解決されます。

空いているアリーナは、コンサルタントの仕事の自由度が高い

 

音圧レベル

ささやきを聞き取るのは困難です。経験上、音は大きければ大きいほどよく聞こえるものです。かつて科学者もそう考えていました。しかし、人は大きな音を聞くと耳を塞ぐことが多くなります。

長年の研究と実験の結果、最も音声明瞭度が高い音圧レベルは、60〜80 dBAであることが判明しました。

 

この知見に基づき、音声明瞭度指数に関する国際規格IEC 60268-16では、より高い音圧レベルでの音声明瞭度指数を補正するように長年にわたり改良が加えられてきました。

2003年までは、音圧レベル80 dBA以上のSTI値が一定であるとする規格でした。

 

音圧レベルをリアルタイムに表示するSTIPA測定機能がed5.0規格に対応

 

その他

スタジアムの音響に関する検討事項は、この記事で紹介した以外にも数多くあります。例えば、試合中の歓声等の音漏れは、騒音問題となる可能性があるため、全体的な遮音を検討する必要があります。 今回、多くの方々の努力と高度な測定システムのおかげで、私たちはたくさんの素晴らしいイベントを楽しむことができました。

Picture by Maja Hitij/Getty Images

Categories: 室内 / 建築音響

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